アルバイターと海/吉田ぐんじょう
てゆきました
あとに残ったのは
びたらびたらと生臭い水ばかりです
なんだかぼんやりしてしまいます
ここは一体どこなんでしょうか
・
仕事を終えるころには
大抵もう真っ暗です
タイムカードをジジジと押しますが
タイムカードというのはどうしてこんなにわびしい
死にかけの虫みたいな音で
刻印されるのでしょうか
夜勤のアルバイトさんは思い詰めたような眼で
着替えをしています
石膏のようにすべすべした横顔の夜勤さんのことを
ほんの少しだけ好きです
着替える前
たまに麩菓子をかじっていたりするその歯は
退化した深海魚みたいに見えて
好きです
と言ってしま
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