アルバイターと海/吉田ぐんじょう
 
しまわないうちに
裏口から素早く職場を出ます

職場から家までは歩いて十五分ほどですので
夜空を見ながら歩いて帰ります
真っ黒でだたっ広い夜空は
いつか夜の海へ泳ぎだしていって
それきりもう帰ってこなかった
子供たちや大人たちのことを彷彿とさせます

街灯の下に落ちる影は夏よりいくぶん濃くなって
ひたひたと揺らぎながら
意志とは関係なく
離れていってしまいそうに見えて

煙草をくわえて
でも火をつけるのはためらいました
橙の光に
かたちのないものたちが
集まってきそうな気がしたからです

じき家へつきます



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