或る少女の生涯について/吉田ぐんじょう
たしは
おめさま
と呼びました
名前は結婚後ずいぶん経つまで呼べませんでした
私があの人の名前を呼んだのは
あの人の葬式のとき
そのときただ一度きりです
都会の人は嗤うでしょうか
・
私たち夫婦には
息子が二人生まれました
長男はショウちゃんにそっくりだったため
時々間違えてショウちゃんと呼んでしまうことがありました
次男はびっくりするほどあの人に似ていました
今でも私は次男と接するとき
なんだか緊張してしまうほどなのです
狭い木造の家で
私たちの生活はなごやかに流れてゆきました
ショウちゃんの電話や母の訃報など
その生活はしばしば
石を投じられ
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