或る少女の生涯について/吉田ぐんじょう
いものでした
文字を読み算術を習い友達とふざけあって
心臓が石炭のように燃えるまで毎日駆け回りました
ですが
じきに私は学校へは行けなくなりました
ゲンロントウセイというものが始まり
国民服が支給されトロツキイとかいう人が暗殺され
時代はだんだん真夏の夕立前の空のように
暗く暗くなってきたのです
ですが学校へ行けなくなったのはそのせいではありません
どういうわけかその頃から
私のうちでは作物が狂ったように実りはじめました
採っても採ってもまだまだ実っている果実や稲や野菜は
裏庭に積み上げられ腐ってゆきました
私や父や母が大車輪になって働いても
追いつかないくらい実るの
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