今宵、夢見よ/セルフレーム
 
昔のお話を聞かせてくださいました―・・・




―私がまだ若い頃のことです。

月の美しい晩でしたね・・・
此の地に来たばかりだった私は、館の此の部屋で、琴を爪弾いておりました。

すると、辺り一面に芳しい香りが漂いはじめ、
私がその香りに気を取られていると、正面の庭に、若者が立っておりました。

淡い緑色の衣に身を包んだ、気品のある、美しい若者でした。
名取の太郎と名乗った彼に、私は一目にして惹かれました。

幾夜も逢瀬を重ねる内に、私は彼を深く愛し、
彼も私を深く愛してくれる仲となりました。

ある夜には己の気持を歌に乗せ、
ある夜には己の愛情を琴の音
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