胎盤/ホロウ・シカエルボク
りへの準備のように
紫色の唇をした少女は
まだ言葉も話せぬうちから
そいつの残した彫刻刀で
自ら名付けた
名前を
右腕に彫り込んだ
それは誰も知らない文字で
誰にも彼女の名前を知ることは出来なかったけれど
彼女はそうすることで非常な満足を手に入れたようで
それきりどんなわがままを言うことはなかった
時々右腕の名前を愛おしそうに撫でていた
少女は一〇歳になるまでに
ぐんと背を伸ばしたけれど
全く言葉を発することがなかった
まわりの者たちが彼女を医者に連れて行ったが
医者は困惑して
「彼女の内部にはおかしなところは何もない」
と
繰り返すば
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