人ごみという言葉が嫌いだった/木屋 亞万
 
にはお盆に誰も帰ってこない
霊魂さえ訪れない場所だ
魚類が産卵しに帰ってくるかもしれない川には
散乱したゴミの腐卵臭だけが漂っている

あまりにやることがないので
橋の欄干に首吊り用の縄を5つぶらさげた
いつでも誰でもここで死ねるように
そしたら翌年の盆にはこの橋に帰ってくる人がいる

クロネコの運送会社は無人のまま
シャッターも降りていないし電気も消えていない
肉屋のディスプレイにはぎっしり肉が並んでいるが
店主の姿はなく、肉の説明書きすらない

太陽が天頂に達しても蝉の鳴く声がしない
公園には鳩すらいない、電線に雀が鳴くこともない
水辺に行っても蚊の一匹すら見
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