病院にて/緋月 衣瑠香
 
付かない
後ろの席に座る若者の男の足がベビーカーの後ろに無造作に投げ出されていることを
しかし、彼は気付かない
あと三センチ以上ベビーカーを動かされてしまうと自らの足が踏まれてしまうことを
若者の顔には表情がない
黒いスウェットで白い携帯電話を弄っているだけだ

ふと赤ん坊が母親から目を逸らす
その次に焦点があったものは私の目
何かを求めるようにまじまじと見ている

やめておいた方がいい
私の目から得られるものは黒いものばかりさ
そんな綺麗な目で見ない方がいい

しかし赤ん坊は視線をずらそうとはしない
青い椅子に座る私は青白くなっていく
新種の金縛りに遭い逃げるこ
[次のページ]
戻る   Point(3)