病院にて/緋月 衣瑠香
ることなどできない
血の循環が良さそうな赤ん坊と血の気が引く私はただ見つめ合うだけ
二六四番の方、お入りください
唯一私が求めていた声が私を金縛りから解放した
赤ん坊の目は宙を彷徨っている
白いマスクをした看護師が白いドアの前で待っている
彼女は私の味方か?
それとも敵なのか?
答えなど出るはずもなく
その疑問は赤ん坊の体内に吸い込まれていった
足音がする
それは私の足音だ
しかし、やはりしずかなのだ
ぴたりと白いドアの前で止まる
赤ん坊もその母親も若者も今は何をしているかわからない
私がわかるものは私を見ている看護師の視線だけ
白いドア
それは、また一段と現実世界から浮いている世界との隔てである
音を立てぬようにとしずかにドアノブに手をかけた
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