海の遺影/木屋 亞万
持ち上げられた砂粒たちは
彼女の目から流れ落ちる涙の筋を見たはずだ
鼻の脇を流れ上唇から滴り落ちた涙は
すぐさま砂粒の隙間に染み込んでいった
これから先どれほど海が荒れ狂おうとも私はそのことを受け入れるだろう
奪われて困るたった一つの命はすでに奪われた
誰かの帰りを待つこともない、今更なにが思い通りになろうとも、既に遅い
もう一度だけ砂の粒を摘み上げて
女は立ち上がった
夏の夜に彼女の頬を三度流れ落ちた涙は
既に乾きの気配を見せている
最後のひとつまみを風に乗せるように海に放つと
彼女は海に背を向けて歩き出した
もうこれで海辺を訪れることは二度とないだろう
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