海の遺影/木屋 亞万
ろう
暗闇に溶けた海から、白い泡沫が波と共に生まれては消えてゆく
朝が来たら海は美しく輝き、夜は跡形もなく失われてしまうだろう
海は女の中に消えない影と夜を遺した
朝も昼も夜も黒い海のままで
女の自画像も萎びた黒い衣装のまま
眩しい思い出はその輪郭を丸くしながら海の底へ沈んでいく
海に降り注ぐ雹のようにいくつもの過去が海へ溶けていくのだ
その一粒ひと粒がこれから訪れるであろうどの物事よりも愛おしい
影と夜に紛れていく記憶の結晶が女を何より苦しめるので
彼女は自分の身体以外すべてを海に葬ることにした
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