邂逅/熊野とろろ
 
とも判別出来なかった
振り返ると全身が鉛のような初老の男が立っていた
まだ日も翳っていないのに すでに酒が臭う
おれのライターでその男は煙草に火をつけ
鉛のような身体の 同様に鉛のような眼球で男はおれを見ている
金縛りにあったかのごとくおれの身体は硬直していた



浅黒く鉛のように黒光りする皮膚から
真っ白な煙を吐き出して男は語り始める
「お前はこれから二人の人間に出会うだろう
 そのどちらかにお前はついていくことになる
 その選択が人生を大きく変えるのだ」
男は自らのことは何も語らなかった
一服の煙草を吸い終わると太い親指で
火種を揉み消し のろのろと去ってい
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