かぜごゑ/吉田ぐんじょう
 



風邪 みっかめ

窓の外を見ると
空が黄色かった
クレオンで厚く塗ったくったような
黄色い空の下で
道行く人たちはなんでもない顔をして
笑ったり
乳母車を押したりしている
油で素揚げされているみたいな
蝉の声が降りしきる
きっと熱の所為もあるんだろうけれど
この世界はなんて異様なんだろう


風邪よっかめ

ようやく起き上がれるようになったので
トローチを買いに行った
背骨が変に湾曲している
身体がふたふたと頼りなくやわらかい
どうもこのまま猫になりそうな予感だ
確認のために爪を見てみる
人間のままのやさしい形の爪だったので
ほっとした
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