かぜごゑ/吉田ぐんじょう
 
した


風邪よっかめ・午後

帰宅してトローチを舐めようと封を破ると
それはトローチではなくて笛ラムネだった
所在ないので
口をとんがらかして咥えて
ぴゅうぴゅうと音を出してみる
それは
高層ビルの路地裏を吹き抜けてゆくような音で
窓の外では
風邪に罹る前に干した洗濯物が
曇り空にひるがえっていて

ああなんだかさみしいなあ
布団の中からは汗と垢のまじりあった
野蛮なにおいがする

誰かやさしい人が来て
抱いてくれやしないだろうか


戻る   Point(8)