「B-29は頭上を通り過ぎていきました。」〜祖母の記憶/夏嶋 真子
 
しょうね。
 苦しかったでしょうね。

 わたしもそこへ行くんだね。)
 

動けない私は全てを諦めてリヤカーの上で大の字になりました。
真夏の空は時が止まったように青く美しく
私は空を吸い込もうとして大きく息をしました。
その呼気の中を、B-29はゆっくりと進んでいきます。
それはほんの一瞬の出来事だったはずですが、
脳裏にこびりついて離れないのです。
写真のように記憶に残る死神は私を見据え冷たく笑っていました。
抗いようもない運命の時、
私は目を閉じて姉のことを思いました。


(姉さん、姉さんはちゃんと逃げられたのかしら。
   さようなら、優しい優しい私
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