「B-29は頭上を通り過ぎていきました。」〜祖母の記憶/夏嶋 真子
 

優しい優しい私のお姉さん。
姉は私の”小さな母親”でもあったのです。

姉の引くリアカーが田畑の広がる一本道から、
小さな町にさしかかろうとした時でした。
けたたましく鳴るサイレンの音。
その空襲警報を切り裂くように轟音が響き渡り、
私は澄み渡る青い空に黒い翼が迫ってくるのを
はっきりと見ました。
当時、戦闘機は人影を見つけ次第、女だろうが子どもだろうが
容赦なく爆弾や機関砲を打ち込んでくると信じられていたので
私たちはとにかく身を隠す必要がありました。

「見て、B-29よ。」

そう言った姉さんは次の瞬間、
リヤカーと私を置き去りにして走り出していました。
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