顎なし鱒夫と俺物語/e.mei
 
たように俺たちを包む、「義兄さん、また夜遊びかい」栗の野郎が俺の肩をつつく、ワカメは俺の顔を見もしない、稲妻はにこにこと俺の手を握る。「忘年会をしたいと言っていただろう、鱒夫君」生の椅子への離れ星、嫁は黙って子供たちを連れて行く。「あんまりよ、義兄さん」ワカメの声が遠くで聞こえる。忘年会、俺はそんなことを一言も言っていないのだが、吹く冬の風にのり永遠が遠くへと飛んでいくのを俺は視た。おお、静かに歌う、美しきマリア! 磯野家はすでに正月の準備に忙しい。ああ、すべては夢まぼろしの月の光に、俺は凍りついた唇を叩き壊す。「良いですね、義父さん」婿養子。だって俺は婿養子。


 稲妻と俺は小さな店に入
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