左手で書いたノート/光井 新
 
張っておけばよかったな。
利き手だった私の右手は何でもできた。文字だってもっと上手に書けたし、器用に色んな事ができる魔法の右手だった。
ひょっとしたらピアノが弾けたかもしれない。ひょっとしたら絵が描けたかもしれない。もっともっと頑張ってれば、もっともっと色んな事ができたかもしれない。
とても悔しい。右手が動かなくなった事よりも、自分の持っていた可能性に気付かないで、大した努力もせずに適当に生きてきた事が。
だからとりあえず、このノートは頑張りたいな。私の左手にいつか、右手よりも素敵な魔法が宿るまで。

「ほぉ、魔法の右手とは、一ページ目からなかなかポエムってるねぇ、中原中也賞もんのポ
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