どうして、また/ホロウ・シカエルボク
思い出せない、記憶自体が差し込まれた誰かの記憶みたいにぼんやりと霞んでいる―外れた窓から潜り込んだら革靴の修繕をやっていた店の中だった、もちろん商品はひとつもなく、子供のころの記憶と、僅かに残った棚の配置からそう思った、その店の店長のことは覚えていた、およそ靴の修繕とは縁のなさそうなキツい目をした初老の男だった、いらっしゃいませ、と微笑むと、まるでこれから生けるものにはかなわぬ場所に行くぞとそう宣告されたような気分になった、覚えていた、ぞっとするような男だった…首を振って、そこから離れた、あの男なら、閉鎖されたデパートでひとり、直してほしい靴を持ってくる客を待っていても少しも不思議なことなんかない
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