もうひとりのぼくが囁く/殿岡秀秋
当たり前だと思って
ぼくは押入れにもどり
布団をかぶる
ぼくはもう寝ようと思った
しかしどこか遠くから
まだ残っているぞ
という声が聴こえてきた
ぼくはもう一度おりて
トイレに行った
不思議なことに
今度は少し出た
やはり出たじゃないか
ぼくの中に
もうひとりのぼくがいて
話しかけてくるのだ
もうこれでいいと思って
ぼくは押入れにあがり布団を被った
ところが押入れの闇から
まだという声が聴こえる
よく感じろ
まだ残っているだろう
ぼくはその声に耳をすます
声などするはずがない
しかし確かにぼくには聴こえる
ぼくはその言葉にした
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)