もうひとりのぼくが囁く/殿岡秀秋
 

当たり前だと思って
ぼくは押入れにもどり
布団をかぶる

ぼくはもう寝ようと思った
しかしどこか遠くから
まだ残っているぞ
という声が聴こえてきた
ぼくはもう一度おりて
トイレに行った
不思議なことに
今度は少し出た

やはり出たじゃないか
ぼくの中に
もうひとりのぼくがいて
話しかけてくるのだ

もうこれでいいと思って
ぼくは押入れにあがり布団を被った
ところが押入れの闇から
まだという声が聴こえる

よく感じろ
まだ残っているだろう
ぼくはその声に耳をすます
声などするはずがない
しかし確かにぼくには聴こえる

ぼくはその言葉にした
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