真空林檎についての考察/within
この部屋の光の具合もあるだろうが 其の皮は重く
赤みは幾分黒ずんでいるように見受けられる
産毛のようなものが軸の窪みのあたりに白くうっすらと生えている
以上からしても 其の林檎は若々しい酸味よりも熟した甘みと
張りのない果肉が秘められていると予想される
今まで手に取られることなく選ばれなかったことによる完熟を もしくは老いを
迎えているのである
私が口にしてしまった若き林檎の実存は たしかに私の記憶に留まっているが
目の前の真空林檎に関しては 想像することによってのみにしか
その内実に触れることはできない
果たしてその重みはいかほどのもの
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)