春の終わり/伊月りさ
扉が
壁になった
観音開きの合わせ目には一ミリの窪みもなく
錠前も、蝶番もなく
光も、ざわめきも、向こう側の気配はなく
ひた駆けてきたあなたの
汗と、一千万秒が
消散した その静寂で
わたしは本を読んでいた
あれは春の終わり
同じものを食べて
同じ布団で眠る
時をどれだけ重ねても
同じものを見て
同じ言葉を話す
時の意図は同じでない
物語のなかの
アレキサンドライトはわたしでした
計算された変色
きれい、
きれい、
きれい、
きれい、
くるしい、
言葉にしなければならない苦
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