田園パレット/夏嶋 真子
 
生い茂っています
彼が願うのは 
日が昇り沈むまで 
額に汗して精一杯 今日を生きる人々の背中にふく風と
我が子らの声にやどる光のあかるさ


 さらさら さらら 
 さら さらら 


そして彼もまた童心にかえる父親のひとり
セミの翅
銀やんまの眼鏡
朝露の蜘蛛の巣

若草色の稲穂の海は おさなごころをはぐくみ
道端の珠玉であふれるほどふくらんだ 胸ポケットで描かれる彼の絵は
緑のグラデーションの空をとぶ赤トンボの群れと一緒に 
平行飛行する自転車なのです



秋、
画家のパレットは黄金に輝いています
乱反射する光の田園に素足で降りたち
親指
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