田園パレット/夏嶋 真子
 
親指の先で彼が歌うのは 豊穣のよろこび


 きらきら きらら 
 きらきら きらり

彼はすべての実りを束ねることのできる たった一人の指揮者
一斉に彼にこうべをたれる稲穂に 人々もまた感謝を捧げ 
恵みを大合奏する 北緯43度の五線譜の上で描かれる彼の絵は
すべてを輪廻の輪へと結びつける たった一粒の種なのです




こん、
はだかになった田んぼに 最初の雪のひとひらがひびき
それを合図に 彼はふたたび眠りにつきました



わたしの家は 田んぼの田の字の真ん中にたっていて 画家が住んでいます
誰も彼の姿をみたことはないのですが 彼は確かにいるのです
あなたの故郷にも あなたの町にも あなたの家にも 彼は必ずいるのです
そして 誰もが自分だけの彼の絵を 思い描くことができるのです






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