田園パレット/夏嶋 真子
 
へと廻らせる心臓なのです




春、
画家のパレットからは水がわきでています
彼が恋するのは
水鏡にうつるもう一つの空で
あくびをかみころす天女の夕暮れ

 れんれん れんれん
 れんれん れんれん 

そして彼もまた魂を乞うかたわれの蝶
すずらん
たんぽぽ
ほら、つつじ
香りのうえをわたるのは カッコウたちの鳴き声

あぜ道に咲く 赤爪草の花芯で描かれる彼の絵は
夕日に染まる肌と肌を 幾度もかさねうみだした
緋色にもえる性器を長針として
北国の短い春の終焉と 夏の誕生を大地へと刻む日時計なのです



夏、
画家のパレットにはみどりが生い
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