変声期/山中 烏流
 

非常階段の隅で
わたしの相手の相手をしているときも
わたしは
わたしだったのだ


一人には広すぎた個室は
決して
きみのためのゆりかごじゃない


きみの深くに触れた手で
わたしは
最もわたしに近くあるべきものを

汚されている



   *



わたしの声は
もっと、遠い昔に
枯れてしまったから
もう
きみのような甲高い声を
わたしが出すことは
これから、ずっと無いだろう



   *



溶接されている
屋上へ繋がる扉の向こうは
きみが
手を引いた人々の嗚咽で
もしかすると
埋まっているのかもしれ
[次のページ]
戻る   Point(6)