変声期/山中 烏流
非常階段の隅で
わたしの相手の相手をしているときも
わたしは
わたしだったのだ
一人には広すぎた個室は
決して
きみのためのゆりかごじゃない
きみの深くに触れた手で
わたしは
最もわたしに近くあるべきものを
汚されている
*
わたしの声は
もっと、遠い昔に
枯れてしまったから
もう
きみのような甲高い声を
わたしが出すことは
これから、ずっと無いだろう
*
溶接されている
屋上へ繋がる扉の向こうは
きみが
手を引いた人々の嗚咽で
もしかすると
埋まっているのかもしれ
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