Fish/ホロウ・シカエルボク
 
まう。だけど、どれだけそんなことに心血を注いだところで、結局のところそれは予期せぬものを覆い隠すことにはならないのだ。ああ、と俺は声を吐いた。君は少しだけこちらを振り向こうとしたが、いつものため息だと悟ったのだろう、黙って消えない程度に先に進んでいた。君はそういう歩き方がとても上手だった。もう少し上手に感謝できる人間であればよかったな、と今更ながら俺は考えるのだ。そしてそのせいでため息の理由を足元の草むらに落としてしまう。落とされた理由は妙に腹のでかい蟻にさらわれて運ばれていく。蟻よ、やめておけよ、そんなものを献上したって、女王は喜ぶことなんかないよ。蟻と意思の疎通を図るすべを自分が持っていないこ
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