雨季/芳賀梨花子
、それは、まるで過去みたい。だから、私は自転車を金網に立てかけた。タンクトップのアームホールから伸びた腕に渾身の力を込めて、金網をよじ登り、向こう側にジャンプする。左膝のちょっと下を錆びた金具で傷つけた。真っ暗な水をたたえた夜のプール。飛び込み台のところにきちんと洋服をたたんで、私は水になる。国道を通る車の音も、セイレーンの悲鳴も消えた。さよなら。でも、これはあなた声。聞きたくて、聞きたくて、でも、他の音がするところではもう聞くことはできない、あなたの声。音がない世界にだけ、あなたの声が響く。さよなら。私もあなたに言う。私の声は塩素のにおいのする泡になった。さよなら。乳房が水の抵抗を受けて自分の身
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