雨季/芳賀梨花子
の身体から離れていく。水面を目指すと、膝から下、肘から先が、液体になってプールの底へ沈んでいった。だから、魂だけでも水面に向かう。息をすることが、こんなにも自然で単純な動作だったのかと驚く。もういちど水になることへの恐れを捨てる。セイレーン、私は怖くなんかない。イルカのひれみたいに、水を切って、一気に25メートル、くるっと回ってプールの壁に魂を叩きつける。ぐーんと水中に伸び消える。残るのは、あなたの声だけ。さよなら。セイレーンの声に惑わされるのは男の人で、私は女。あなたの声しか聞こえないプールに消える。あなたの声で満たされた、しあわせな季節。
六月、やがてくる七月
雨が降る
人の心のように
やさしく、時に激しく
四角いプールの水も形を失い
留まるということを忘れる
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