lit/竜門勇気
々が続いていたある夕方だ。
家のどこかで初めての諍いが起きた。
激しい口論(屋外からは派手な独り言と捉えられたかも知れない。声すら同じなのだから)に続いて尋常ではない叫び声が聞こえた。
その激しさに俺たちは声の出所へ駆けつけた。俺たちにとって俺たちが欠けることは体制の崩壊に通じる。一人の欲望に対する七倍の注力は当時最低限の必要案件だったからだ。
リビングルームに我先にと俺たちが飛び込む。
最悪の事態は起こるだろうか。それはありえない。最悪の事態を恐れているのは俺たち誰もが同じことだ。
やけに冷たいドアノブ。この鈍く銀色に光るこいつはなぜこれほどまでに冷たいのだろう。喉の周りやうなじ
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