旅レコード/影山影司
 


 長旅は遂に終わる
 故郷は思い出せぬほどに遠く
 削れた左足は針のように細く
 垂れた垢汗血涙は大地を穿つ
 両の腕は脚代わりに杖を突く

 父は遠くから来た、と母が語った
 子種を残して、また遠くへ行く、と旅立ったとも
 「帰ってくるのか」と尋ねると
 「ここではない所へ」と笑ったという
 父のそのまた父もまた旅人だったという
 俺は俺の生き様を探すと 旅に出る

 旅が住処になるまで時間はかからない
 父は血を流しながら旅をしたという
 気づけば俺の後ろにもしるべが出来る

 道中の里で子を授かった
 子は俺に良く似た面構えだ
 腹の内も同じだろ
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