旅レコード/影山影司
 
だろう
 それで充分だ
 「ここではない所へ」
 俺は里を出た

 黒いしずくしるべは薄く広がり道を作った
 父と同じ道は辿らない 俺は俺の道を行くのだと荒地を進む

 いつしか知らない道が増えている
 父も俺も歩かない道だ
 子が、どこかを歩いているのだろうか

 俺の道は途中で途切れるが 子は遠くまで行くだろう

 長旅は遂に終わる
 故郷は思い出せぬほどに遠く
 削れた左足は針のように細く
 垂れた垢汗血涙は大地を穿つ
 両の腕は脚代わりに杖を突く
 

 百年千年万年経って、しるべの道は大地を覆う
 黒々と光る道を脚を引きずり旅する男一人
 レコード針のように細い脚がしるべの道から声を拾う
 幻聴ではない 確かな声を
戻る   Point(0)