旅レコード/影山影司
 
汗を落とし、磨り減る体からは血が流れる
 脚は腐りかけの匂いと汁を滴らせ
 道には黒く、しるべのように跡が残る

 病にやられ道半ばで倒れた
 見知らぬ娘が俺を助けた
 何者かと尋ねる娘に「遠くから来たのだ」と答えると
 異国の話をして、とせがむのだ

 ややあって、娘は俺の子を孕み妻となった
 俺は父と呼ばれ 家を持った
 悪くなった脚だが職も得た
 不都合は何も無い

 心臓の音が聞こえる
 「ここではない所へ」

 赤子が孵るまでに俺は家を出た
 妻の顔は憶えていない
 「ここではない所へ」

 きっと俺は辿り着けないだろう所へ
 行かなくては

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