旅レコード/影山影司
幻聴はやまない
鼓動のように繰り返し、吐息のように身に染み付く
十三の時、俺は海を渡る
村の山の向こうの谷二つ超えた里の外れの墓地の終わりの林のそのまた向こう野原から
貿易船が出るというので水夫として潜り込んだ
旅は過酷だと水夫仲間が教えてくれた
海の向こうはどんな所だろうかと考える
「ここではない所へ」
寒いところへ行こう
北方に降る雨は冷たく白く軽いと聞いた
北へ 北へ
「ここではない所へ」
熱いところへ行こう
果樹と魚で腹を満たし、田畑を持たずに家族を作ろう
南へ 南へ
「ここではない所へ」
汗を
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