求道者/影山影司
 
劣化か、剥がれ落ちているのだ。夜半であったため、住人を起こさないように静かに歩いた。三階の踊り場は蛍光灯が切れて真っ暗であったため、手すりに手を乗せてゆっくりと歩く。これから死のうという人間が、何をしているのだろうか。
 屋上へ辿りつくと初夏のわりに冷たい風を感じる。醜く死のう、飛び降りてひしゃげて、形を失ってしまおう。人間がどれほどの高さから飛び降りたら死ぬのかは知らないが、五階、というのはもっとも中途半端に形を喪失できるような気がした。
 排ガスでざらつく鉄製の手すりに手を掛けて靴を脱いだ。裸足にそのまま靴を履いて出てきたので、私の歪な足はいたる所に豆を作り、豆は潰れて剥がれた皮の下から体
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