求道者/影山影司
 
ら体液を漏らしていた。楕円の傷口だ。ミカンを薄く抉ったように、まるくへこんで体液に濡れそぼっている。
 その時、私は見たのだ。
 疲弊の幻覚、生への執着、自尊心、ただ、何でも良い。
 私は自身の傷口に、かつての炭火を見た。

 あの頃、燻る炭を突いて割ると、人参や果実を思わせる断面を見た。高熱を湛え、エネルギーを静かに湛え続けたあの燃える様が好きだった。
 それと同じものが私の足に。私の皮膚の下にも、薄皮一枚の下にも、赤々とした血液と無数の組織を支えるエネルギイがある。
 私の体の中にも美しさはあったのだ。

 垢と汗に塗れた手を傷口にあてると痛みが走る。
 耳を澄ますと、風の音と輸送車が忙しく走る音が聴こえた。
 おなかがすいた。
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