求道者/影山影司
 
下っているだけの腕まで節々が痛む。靴の中では革と皮が擦れて染みるような痛みが一歩ごとに走る。口中は乾き、何故か意味の無い音を呟いていた。
 私はまだ自らを買被っていたのだ。童話に出てくる流浪の旅人のように行倒れたいと、この期に及んでまだ装っているのだ。なるほどそのようにして最後を迎えたとなれば、死後、私の作品の値段は一桁あがるかもしれんね、と自らを笑う。

 もう嫌であった。

 幸い街中であったので方法は手軽に行える。安普請の公営住宅を選んで、階段を上る。五階建ての、剥き出しのコンクリート階段。滑り止めが申し訳程度に隅にへばりついているが、その殆どは子供のいたずらか、それとも経年の劣化
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