「嬰子の褥」返詩 胎児のわたしから母へ/夏嶋 真子
死期にまで逝きついて
せつなげな震えといっしょににおい
身体全体は観音の顔のように奥深げに優しく
それはまるで宇宙そのものの神秘への夢のふくらみ
地獄の顔をした私をなぐさめるのである
アカチャン アカチャン とさまようが
オカアチャン オカアチャン とは決して答えない
幻聴も許さぬほどに嬰子はひとりという全体の澄んだ褥
蝶のようにとまっていて 私の声は海に吸われ答えられぬことで追い求める
アカチャン アカチャンは永遠の道行を続く
ああその遠さへの波打ち際にただよう紅さ
あれは私の血 子宮にしぼられていった私自身の誕生の証し
視えなかった母への痛みがほころぶ時 私はもうなに
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