ぷかり/恋月 ぴの
 
糊の効いた藍染めをくぐり抜けると
石鹸の香りがいらっしゃいませと迎えてくれる

散歩の途中でみつけたお風呂屋さん
モクレンの香りに誘われて迷い込んだ小路
朝夕通っている駅前通りとはさほど離れていないのに
昭和の雰囲気残る家並みに松の湯さんはあった

おんな湯の下足入れに赤いサンダルあずけ
番台の女将さん、わたしの顔覚えてくれたのか
さり気なく時節の挨拶交わしたりして

誰が見てなくとも「らしさ」は大切にしたいよね
脱いだ下着類を揃えて畳んだ上着に忍ばせて
湯殿の引き戸をがらりと開けてみれば

からんこんと賑やかな音鳴り響き

平日の夕暮れ前なのにそれなりのカラン
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