ひとつずつ死滅する暮れ方からのアルペジオの残響/ホロウ・シカエルボク
 

身体の澄んだ蜻蛉が目の脇をかすめる、あれはなんだ、あの虫はなんだ、そいつの成立ちを知らない、知らないものを知るたびにこれまでは何だったのかと自問する、そんなことにいったいどんな意味を探し出せば満足出来る?知らないでいることの方が必ず過半数なのだ―俺は確信を持たない生物、武器も鎧も持たぬまま、戦場を徘徊する戦士の亡霊だ―その闘争心が描き出すものはもはや戦いなどと呼べるようなものではない
渦中にいて傍観する、向こう一面に散乱する死、散らばった死体の目つきを、折れた首の不安な角度を、手首から離れた手のひらを、真っ二つに裂かれた体躯を…海月のようにかぶった血液の温度と、感触を、傍観する、渦中にいて
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