夜霧のパピヨン ★/atsuchan69
 
溶けた化粧の下に、毅然とした別の女がいた
「わかった。よし、とことん飲もう」
青髭はそう言って、
「アイリッシュ・ミストで・・・・二人分作ってくれ」
やや髪の薄いバーテンダーに注文した

「ミスティか」と、俺はついうっかり口にした。
「ええと――」
初老のバーテンダーが尋ねる、「音楽も・・・・ですか?」
万事よろしい笑みを浮かべて青髭は言った、
「ジョニー・マティスの歌で頼む」

五十年を経た、黒い合成樹脂の円盤に針を落とし、
甘い声で彼が唄いはじめるや否やまったく理由もなく、
店の入口となった狭い階段から、
そして通気口からも地上の霧が降りてくる
いつしかドライア
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