アルス・コンビナトリア:結合術 (部分)/がらんどう
 
可能性があるのならば、彼女には愛される可能性だってあったはずだ・・・可能性だけなら。可能性・・・彼女が鬼になる可能性も、人魚になる可能性も。だが、彼女は徹底的に、その可能性というものをこそ嘔吐すべきであったのだ。
「さあ、死ぬんだ。カサネ」
「こんどは私そういう名前なの? 私、また死ぬのね」
「ああ、死ぬんだ、カサネ。もう一度死ぬんだ」
「私、今度生まれてくるときは蝸牛がいいわ・・・などとは言わない・・・彼女は言わなかった。
彼女は蝸牛でも人魚でもなかった。そんな可能性さえなかった。


「可能性さえないのよ」ピョートルの妻であるエカテリーナはそう言った。
確かに可能性さえなかっ
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