知らない故郷の道を走る/北村 守通
かに拾われていなければ
まだ
誰かに捨てられていなければ
私が育ったこの町は
もはや私のものでなく
私を育てたこの町は
もはや私に構わない
私はここでも一人ぼっちで
私は東でも一人ぼっちだった
長らく口きく相手もいなかったものだから
話す言葉も
発声も
忘れようとしている
取り戻そうと
口を開けば
砥粒入りの潮風がその口塞ぐ
口の中に
幾千万が
まとわりついて離れない
小さく硬すぎて
噛み砕いて飲み込んでやることも出来ない
潮風に
けっとばされて
視界が揺らぐ
軽すぎる身体を弄ばれる
ここを去れと
実力行使が繰り返される
帰路につく
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