潮騒のひと/恋月 ぴの
 
あのひとの子
男の子だと判ったとき私はかなり迷った
たとえ貧しくともふたりで生きて行く
母となる女なら必ずそうするであろう選択を私は選ばなかった

読み終えた童話を閉じれば晩秋の海岸線は儚く砕けて眩しい

私からの連絡に美佐子さんは有無を言わさず私に仕事を辞めさせ
遠い親戚の持ち物だという海辺の別荘に私を住まわせた

なんならずっと住んでもかまわないから

我が子を奪われた女の行く末を案ずるというよりも
跡取り息子の産みの母の居所を常に把握しておきたい
そんな意図が言葉の端々に見え隠れした

良く晴れた日には近くの灯台まで散歩してみることもある
道すがら立ち寄って
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