潮騒のひと/恋月 ぴの
 
よっこらしょ

そんなことばが口癖となった
ひとしきり身の回りの片づけを終えると
臨月の大きなお腹を抱え物干し台兼用のテラスへ這い登る

白いペンキを塗り重ねた木製のデッキチェアに身を委ね
臙脂色のストールでとがったお腹を労わりながら
近くの図書館で借りて来た童話を読み聞かせてみたり
お腹に添えた掌で軽くあやしながら知ってる限りの童謡を口ずさむ

離れ離れとなってしまう我が子に私の声を覚えて欲しい
こんな産みの母であったとしてもあなたのことを心から愛していると

ピィヒョロヨヨヨゥ鳶が宙で鳴いている

仮に女の子だったとしても産み育てるつもりだった
愛していたあの
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