修羅を読む(10)/Giton
 
「からす」の例は、鳥が現世と冥界の間を行き来しているという信仰を背景に考えると、よりよく理解できるように思います。
8 ところで、以上に述べてきた鳥とか舟とかは、賢さんが傾倒していた法華経を中心とする仏教の信仰とは異質のものと思われます。
 賢さんの法華仏教的な心境については、私は、短い作品ですが、「有明」という詩に注目したいと思っています。

  「起伏の雪は
   あかるい桃の漿〔しる〕をそそがれ
   青ぞらにとけのこる月は
   やさしく天に咽喉〔のど〕を鳴らし
   もいちど散乱のひかりを呑む
     (波羅僧羯諦菩提薩婆■〔ハラサムギャティボージュソハカ〕)」
 
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