修羅のひと/恋月 ぴの
ひとの気配に気付き上体を起こしてみると
逆光に髪の長いおんなの姿を認めた
それがあのひとの妻美佐子さんとの最初の出逢いだった
彼女について何かとあのひとから聞かされていたのと
私に用事があるひとなんてそうはいるはずが無い
昔からの友だちさえも見舞いの不便さに足は遠のいてしまい
病院の事務方からは今日明日にでもと退院を急かされたばかりだった
お加減はいかがかしら
愛するひとを失った喪失感と奇妙な昂揚に支配されていた私は
天井を仰いだまま彼女の問いかけには一切答えなかった
今にして思えばもう少し胸襟を開いて接するべきだったかも知れない
それでも申し訳ありませんと謝罪を
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