雁/杉菜 晃
 

 余程力がはいっていたと自覚したものだろう、女子学生は、「あ」と短く叫ぶや、躊躇う間もなく私の鳩尾の上をさすり始めた。泣きそうなほど真剣な顔になって―――
「ここ? ここ?」
 と、おろおろ声を発しつつ。 
 しまいに、そこに心臓があって、その鼓動を確かめでもするように、私の胸に耳を押し当てた。
 その間どのくらいの時が流れたものか、既に雁の列は屋根の向うに隠れ、遠のいていく啼声がかすかに届いてくるばかりだった。
 私の動揺は、胸の痛みから、女子学生の意外な動転ぶりのほうに移っていた。
 彼女の仲間たちも、雁から私たち二人に矛先を変えていた。

 女子学生は、そ
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