大停電の夜に/かいぶつ
僕の中での主人公は死んでないし
物語は永遠に続いている
たとえ最終回がやって来たとしても
最高にハッピーエンドなはずだと
信じているのだ、今も。
大停電の夜は
そこが世界でいちばん
静かな町になったような気がした
人々の動きは壁を這う
軟体動物のように鈍くなり
視界不良なことをいいことに
秘密を打ち明け合ったり
やけに素直になって
簡単に謝ったり
簡単に許したりした
不思議と悪事をはたらく者はいなかった
この町にとって最大の娯楽であるテレビが
ゴールデンタイムに映らないとなると
住人たちのやることは決まっていた
寝るか、天体観測をするか、ラジオを聞
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