いつかどこにも行けなかった旅人のはなし/ホロウ・シカエルボク
そく試した
レールのうねりは波のような流動体に変わり、窓の外を流れ去る灯りが
ホイップ・クリームのような長い長い軌跡を描いた
列車はひと揺れごとに様々な形に変わり、客席のわずかな連中の顔が
様々な動物や化物に変わった
俺は不思議なほどしんとしていて
それらの光景をぼんやりと眺めていた
少し息が苦しい気がしたけど
完全に記憶は振り払われていた
行商人が連れていた可愛い娘がやってきて
母親のように俺の顔を両手で包んだ
俺はその娘をぼんやりと眺めていた
あああ
街の灯りと車内の灯りが重なり合い…やがて鯉のように跳ねた、俺は一瞬自分の座標が判らなくなり、娘にここはどこだと聞い
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